「着換えさせて」コンビニでの食事を終え、交差点のど真んなか、彼女は両腕を広げる。「また?」「わたしはおしゃれなの」「ここで?」「君しか見ていないよ」「なのに着換えるの?」「美意識の問題」「ふぅん」僕の頭脳に反論が出てこない。つまりはやるということだ。「動かないで」僕は彼女のシャツに触れる。秒間数百万回の微震動で繊維を破壊する。結果としての脱衣となる。粉砕された衣服が発火する。彼女の肌を焼く。彼女がうめく。「変な声を出さないで」「興奮するでしょう?」うなずく。焼けた肌が変質する。キチン質になる。肌と同化し、編みこまれてゆく。甲虫的な光沢を持つ衣服となる。彼女は自分の身体を見おろす。その場で一回転。「どう?」「防御力が高そうだね」「ちーがーうー!」「可愛い。いや、違う」「なにそれ」「最初から可愛いから、言うことに意味がなかった」「意味はあるから、何度でも言いなさい」「はぁ」僕は自分の身体を見おろす。長いあいだ代わり映えのない衣服が見える。「着換えさせてあげようか」彼女が言う。「貴女がやると、なぜか着ぐるみばかりだから嫌だ」僕は首を振る。「可愛いのに……」彼女の頬がふくらんでゆく。