「この世の成り立ちから考えましょう」彼女が言う。「最初といってもいろいろあるよ」「まぁ、地球がどうとかはいいの。わたしたちの成り立ちよ」「ふむん」「マネしないで」「ふむん」背中を叩かれた。「痛いよ」「真面目にやって」「僕も貴女にも最初がない。けれどこうしてここにいる」「けれど、ここまで複雑なハードウェアにソフトウェアがあるのだから、より最初があると考えるのは自然だと思う」うなずく。異論はない。「そう、複雑さは時間がかかるの」見回す。街がある。街を作り上げた歴史を見いだすことはたやすい。そして歴史は人間の所産だ。けれど街を作ったとおぼしき何者かがそっくりいないのだ。「僕のことを調べるほうが良いのかも」「どうして?」「僕はどちらかというと生物よりはロボットに近い。作った誰かを探しやすいと思う」「それを言ったらわたしだって、魔術から生まれたよ」「いずれにせよ人工なるものを連想させる」「けれど人間がどこにもいない」「そうだね」いつもこの疑問に立ち返ってしまう。僕たちの最初を線引きした人間がいる——いるはずだという考え。あるいは願望だ。「ふむん」「次にまねしたらぶつよ」「とりあえず、僕たちが最初に僕たちを意識した場所に戻ってみようか」「なにか手がかりが見つかるかもしれないということ?」うなずく。僕が歩き出すと、彼女がついてくる。異論はないらしい。歩きつつ、疑問が生じる。僕はどこで僕であることを意識したか? それが思い出せない。「まぁいいや」「どしたの?」「別に」時間は、いくらでもあるのだ。思い出すまで思い出そうとすれば良い。