狭いテントのなかは、薬効で虹色になった煙で満ちている。テントのなかにはわたしだけがいる。天井は高くなり低くなりを繰り返している。その周期は波の満ち引きそのものであるという直覚があった。閉所は宇宙と説かれている。宇宙は精緻ではないけれど細かなからくりでできている。少なくとも、そのような教えを受けている。疑ったことはない。信じたこともない。けれど、わたしのいる空間には理法と幻覚がもたらす複雑な仕組みが煙となって漂っている。腕を動かす。体内時計が通信を行い、14日ぶりに身体を動かしたのだとわかる。煙が形を変え、回路となる。回路のうえを抵抗を受けない電子が動く。なにがしかの処理をする。テントの外から大声がする。神の宣託、真理の下賜、そんな感じの喜びを聞き取る。実際には、煙回路からの返却結果を解析した結果である。わたしは満足する。わたしに与えられた仕事ができているという満足だ。同時に悲しみが生じる。わたしは外の喜びを賜ることができない。喜びはテントに構築された宇宙の外にあり、宇宙の内側を観測することでしか得られないのだ。そう考えると、わたしの満足が汚れたように思えてくる。煙が黄色くなり赤くなる。警戒と危険——巫女の説得を要する。煙がわたしの耳のなかへ殺到する。薬効が不満を食い散らかし、満足のみを増幅していく。わたしはなにを考えていたのか考えられなくなってゆく。わたしはからくりでできた宇宙そのものへと引き戻されてゆく。