案内された先には庭園があった。わたしはどうして案内されたのか。旅行していた気がする。けれど思い出せない。視界のすべてを埋める植物の匂いが考えようとする自分を打ち消す。どうだったか。わたしは何者だったか。考えようとした。考えられなくなった。庭師の案内が進行してゆく。この植物はあれ、あの植物はこれ。固有名詞の物量にのけぞる。物理的に。植物が分泌する薬効によって身体感覚がおかしくなっている。ふと思い浮かぶ。目の前の庭園は本当に庭園か。荒野ではないのか。化学がもたらした薬効の庭園ではないのか。横を向く。振り返る。繰り返す。足下を見る。おぼつかない。庭師がそんなわたしを振り返って笑っている。 「楽しんでいますね」 わたしが? 「庭園とはあなたのように自分を散策する場所なのです」 そんなものかなぁ。首をかしげる。よくわからない。よくわからないままわたしは庭師に案内の続きをうながす。庭師は通路を進み出す。わたしはそれについてゆく。どこまでもついてゆく。