家族で牧場に出かける。牧場の入口から肥料の匂いが届く。パンフレットによると、農業もやっているらしい。入場料金だけで野菜つかみ取りは妻の機嫌を良くする。子どもは牧場に行きたがっている。支払いを済ませたわたしは牧場に入る。囲いのなかで、牛・馬・羊・人・物理法則・法制度がのどかに草を食んでいる。どれも品種改良が進み、それぞれの目的に沿った身体的特徴が目立つ。子どもが人を指さしてはしゃいでいる。かつての自分のことを思い出しているのだろう。さすがにわたしや妻にとっては昔すぎて、かすかな想い出を思い浮かべるのが精一杯となる。パンフレットの手引きに従い、牧場の施設を見学する。大半の施設は自由に見学できたが、出荷工場だけは厳重なセキュリティで保護されており、工場付近に近寄ることすらできない。わたしたち出荷工場付近で立ち止まる。なんとなく互いに目配せしてしまう。不穏な表情が浮かぶ。家族は耐えられなくなり、近くのレストランに向かう。ほとんど逃げ出すような態度だったと、レストランの席に着いたわたしはそんなことを思い浮かべ、思い浮かべてはならないと確信し、ワインをがぶ飲みして記憶を押し流すことにする。