セールだったので伝導ヘッドフォンを註文する。次の日に届き、さっそく頭部に装着し、スマートフォンと接続し、音楽を再生する。しかしなんの音も聞こえない。ボリューム調整しても、再接続しても、無音のまま。不良品をつかまされたかと、連絡先が書いてあるだろう保証書を手に取る。そこで気付く。伝導ヘッドフォン。骨は?んんん?となる。誤脱なのだろうと思い、箱やマニュアルを確かめるも、骨の文字はない。英文も同様に。では、なにを伝導するのか?わたしは身体のあちこちにヘッドフォンをつける。ヘッドじゃないけどなぁ、そんなことを思いつつマニュアルを見ると、手書きでHeadの部分に打ち消し線がされていた。ヘッドにつけるものではなかったという仮説の傍証。左胸に巻き付けるように装着する。心拍数がでたらめに上下し始める。なにが伝わってくる。心拍数の高さは興奮を、心拍数のランダムさは混乱を、あらゆる感情が心拍数の影響を受けるのだとわかる。心拍数が5000を超えそうになったところで、あわててヘッドフォンを外す。スマートフォンでは音楽アプリが起動している。なんとなくSNSに切り替える。ヘッドフォンを胸部に取り付け、タイムラインを流す。SNSが心拍数に変換される。わたしはヘッドフォンを取り外し、SNSを眺める。わたしは心拍数をSNSに書き込む。Likeのハートマークのクリックが始まる。そのスピードは、わたしの心拍速度とリズムに同期している。