紛失ダイヤルに電話をかける。しばらくしてオペレータとの通話回線がつながる。わたしは紛失を訴える。なにを紛失されましたか?ええっと。答えようとする。答えられない。あれ、わたしは紛失したから紛失ダイヤルに電話をかけたのだ。そこに破綻はない。けれど、紛失したものが思い出せない。なにかを失ったはずなのに。オペレータは礼儀正しい沈黙で応じる。時間がたつ。なにも言えない自分が恥ずかしくなり、通話を切ろうとする。オペレータが大量の質問をぶつけてくる。わたしの記憶から目的を引きずり出そうとするために編み出された、実績ある質問群。最終的に、わたしはなにがしかを答える。それは、紛失したものだと思える。それはようございました——オペレータは再発行の手続きを取る。手続きを終えて、わたしは通話を終了する。これで紛失したものを手元に戻すことができる。けれど、別のなにかを紛失した、そんな気持ちになる。