わたしは目の前にいる依頼人の修繕を依頼される。わたしはそれらしくうなずいてみせる。そうしつつ、なにをどう修繕すればいいのか、そもそもどうしてわたしにそんな依頼をするのか思い悩む。確かに父は修繕を仕事としていることは知っている。わたしは父の仕事を継いだ。理由はひとつ、「座っているだけでもうかるぞ」というささやきだった。そんなことはなかったではないかと、亡き父に文句を言う。依頼人はゆっくり首をかしげる。わたしの反応が悪いのだろう。「では、始めましょう」わたしは手を差し出し、依頼人の顔を手のひらで覆う。「動かないで」それらしいことを言いつつ時間を稼ぐ。修繕ねえ。内心で首をかしげた瞬間、手のひらからなにかが流れ入る。家族の不和、仕事の失注、壊れつつある臓器、この世から遠ざけられつつある感覚、などなど。なるほど。わたしは手のひらからなにかを流しこむ。わたしのなかから流しこむべきものがなくなったと感じ、「終わりました」と言う。依頼人は、味のある顔をする。「しばらく待ってください、そうすればわかりまます」わたしは物言いたそうな依頼人を事務所から追い払う。ソファーにもたれる。心身がくたびれきっている。依頼人を追い払うので、最後の気力体力を使い果たしてしまっている。わたしはぼうっとする。修繕、できたのだろうか?数年が経過する。わたしは新聞の記事で、依頼人がビリオネアになり、子々孫々の繁栄ぶりを知る。そうですか、と私は新聞紙を折り畳んでラックに戻す。事務所のドアがノックされる。修繕の依頼が舞いこんでくる。