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いつかどこかわたしのフードコート
わたしは週末に自炊するのが面倒でフードコートに向かう。そこはあらゆる料理のお店がそろっていることで評判であり、料理を楽しむ人が多いはずなのだけれど。足を運ぶたびに、わたしと数人の客しかいない。まずいわけではない。高いわけでもない。なのに、なのに。わたしは毎度の疑問を抱きつつ注文しようと物色する。聞いたことのある言語でオススメをまくしたてられる。お店のぶんだけ。言語のぶんだけ。わたしはなにかの煮込みと野菜となにかを炒めたものをトレイに乗せてテーブルに戻る。食べる。なにかのスパイスの風味となにかの食材の旨味が口のなかで広がる。「ンマーイ!」とラーメンを食べたときのような感想を口にする。テーブルは数多くあるけれど、食事をする客はわたしの周囲に固まっている。あるいはわたしが客の集まりのなかに混ざっている。数多くあるテーブルのなか、ぽつんと食事をするのは嫌ということか。そんなことを考えつつ食事をする。お店の人がティッシュペーパーのボックスをテーブルに置いて回る。お口用、テーブル用とマジックで書き殴られている。どこかの国の言語で。わたしは食べ終え、ティッシュで口を拭う。そして思いつく。客がほとんどいない理由。どこのなにを食べているかわからないから、どこで食べているのかわからないから、誰と食べているのかわからないから。そう結論して店を出る。そして結論を忘れてしまう。また来店したら、同じ結論にたどり着くことがわかっているので、忘れても安心していられる。