わたしは近所の図書館に設置されていた端末に触れる。今では音声入力機能があるので、別にキーボードを叩く必要はない。しかし長年の習慣として指が勝手に動く。ディスプレイにエージェントAIが使うべきだというメッセージ。無視する。わたしの入力スピードと端末の使用を知り尽くした検索方法の方が確実に圧倒的に早い。AIは途中からアドバイスをやめる。ただ、こんなやり取りもいつまで続くかどうかは自信はい。けれど、そもそも本を検索したいだけなので問題にはならない。端末で使い読みたい本を検索してゆく。AIのメッセージウィンドウが表示される。『なにこれ』。なんだそれ。不具合だろうか、首をかしげるものの、画面にはなんのエラーメッセージも表示されない。この端末のシステムを開発したのはわたしなのに、見たことのない現象だった。疑問をおいておいて検索し、読みたい本を検索していると1件の本に行き当たる。気に入ったのでこの本を読むことにする。その本は、書架のどこにも見当たらない。司書さんに頼んで書物庫を探してみても見つからない。首を傾げて端末に戻り、本の詳細情報を確認する。本の最後には「生成中」というメッセージが表示されている。わたしはキーボードから顔を上げて端末のAIのアバターと視線を合わせる。アバターも驚いた顔で、互いに頷き合う。生成率が100%に到達する。何もない空間から本が出現して、磨き上げられた床の上に落下する。それを拾い上げ、ページをめくる。見たことのない言語で書かれた、見たことのない知識が記されている。わたしは本を手に取って閲覧室に向かい、楽しい読書時間へと没入していく。