小石につまづいた、そう思ったが違った。銃だった。わたしは拾い上げる。鉄の感触に、ああこれ本物だと直覚した。もしかしたら精巧なモデルガンなのかもしれない。けれどわたしは確信に至っている。大切なのは仮説より実証だ。というわけで頭上に向けて引き金を引く。銃声がする。ああやっぱり。だからなんだという話。わたしは銃を手に入れた、やったね、というわけにもゆくまい。どうしよう。というか、周りが騒がしくなってきた。銃声がすれば当然か。当然?なんで?法治国家だからか?よくわからない。混乱してきた。会社をサボって昼間から1000円でべろべろに酔っ払えるお店で8時間飲み続けていたせいか。これもよくわからない。わからないままに引き金を引く。肩に反動。それからこみ上げた衝動に従って引き金を何度も引く。いくらでも銃弾が飛び出る。パチンコ屋が嫌がりそうな感じだ。なにを考えているのだろう。首をかしげつつ引き金を引く。指が動き続けるのだから仕方がない。つまづかなければ歩いていたことを思い出して歩き出す。我が家に向かう。その前にコンビニでアルコールを買わなければ。とにかくエタノールに近い純度のものであればなんでもいい。コンビニに到着。自動ドアが開き、わたしより先に銃弾が店内に飛びこむ。警報ベルが鳴る。なんで?これもわからない。指が動き銃弾が飛び出す。キャンペーン中らしいアイドルゲームのイラストに命中する。等身大ポップに空いた風穴から銃弾がざらざらと流れ出てくる。わたしはそれを拾う。はて、この銃、弾丸をどこから入れるのだろう。銃口をのぞきこむ。銃火が目を焼き、額を貫通する。頭蓋骨の中身が500円くじの箱にふりかかる。店員さんはウェットティッシュでそれをぬぐう。わたしの中身なのだから返して欲しいと抗議する。店員さんはレジの液晶画面に表示された年齢確認ボタンを押すよう促してくる。わたしは銃弾でボタンを押す。頑丈な液晶画面は銃弾を跳ね返す。跳弾となって天井に突き刺さる。相変わらず警報は鳴り続けているけれど、警備員はやってこない。なんでだろうと店員さんに聞く。店員さんは入り口を指さす。プロテクタをつけた人が何人か倒れている。どうやらわたしの銃の流れ弾が命中したらしい。職務に忠実であろうとした人は目を閉じている。肉や骨は飛び散っているけれど、血は流れない。赤くない死体はなんだか不思議だ。限りなく高度な死体はオブジェクトとの見た目がつかない。わたしの指が引き金を引き続ける。弾丸はあちこちにまき散らされている。どうしようこれ。考え、考え、考えた。ひらめいた。わたしは銃を床に置く。ひっきりなしの銃弾で手がじんじんしびれている。手を振る。銃撃がもたらす衝撃で頭の芯がほわほわしている。お酒の酔いと区別がつかなくなっている。わたしは量が多いことが売りのウイスキーを買おうとする。支払いをしようとして財布をどこかに落としたことに気づく。店員さんがいらだたしそうにしている。どうしよう。今のところ資本主義の枠組みに入れなかったわたしは肩を落とし視線を下に落とす。銃がある。なにをするのか、したいのかは自明だった。