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通知する猫
喫茶店でノートパソコンを広げていると、画面端に通知が表示される。猫の絵文字/なにを意味するのだろう。首をかしげつつも、通信者を探知するためスクリプトを実行する。公衆ネットワークからだとわかる。もう少し詳細に探る。画面端に通知/場所が特定される。わたしがいる喫茶店だった。首の筋肉が痙攣/思わず周囲を見回してしまいそうになるのをとっさに抑えこむ。それでも、今の反射に不審さを見て取ることは簡単だろう。そう諦め、堂々と見回す。客は男性・女性が複数人。それらしい反応を見せる人間はいない。つまりわたしのみが不審者だ。苛立ちが生じる。気分良くキーボードを叩いているときに割りこまれるのがなによりも嫌なのに。紅茶を一気飲みする。この喫茶店に来る理由である紅茶の味を楽しめなかったことに、さらなる苛立ちが生じる。会計を済ませて店の外に出る。今度はスマートフォンに通知/残念そうな顔をした猫の絵文字。なんだろう。なにが目的なのだろう。苛立ちから決心へ——1人ずつ締め上げて、犯人を割り出そうじゃありませんか。店に戻る。それでも行きつけの喫茶店であるため、律儀に注文する。SUICAで精算しようとカードを取り出し、決済用端末に触れさせようとする。端末の液晶画面にお辞儀をする猫の画像が表示されている。店員さんが微笑む。「いらっしゃいませ、ご注文はなにになさいますか?」「あなたを」わたしは液晶画面を指さす。居合わせたお客が目をむく。店員さんが手首を曲げ、招き猫らしきジェスチャをする。「にゃーん」なにを意味するのだろう。店員さんは微笑んでいる。